インドカレー屋 BONGAマスターのインド旅行記


by bonga-curry

インドの食い倒れ(2)

インドの食い倒れ(2)
第2章 インドの初夜は

 そんなこんなのドタバタの結果、1月のデリー空港に一人降り立ったおじさんの勇姿があった。現地時間で今午後11時。国際空港と呼ぶにはあまりにも殺風景な港内の出国ゲートに向かいながら、旅行代理店のOさんの話を思い出していた。
 「僕らが今一番降りるのがいやなエアーポートがデリー空港ですよ。特に夜に着いた時なんて最悪。タクシーなんかに乗ったらどこに連れて行かれるかわかったもんじゃない。空港指定のプリペイドタクシーだって危ないものですよ。とにかく朝まで空港から出ないか、ホテルに予約を入れて送迎の車を出してもらうかどちらかですよ」
 僕は迷うことなく後者を選んだ。せっかくのインドの最初の夜を空港のベンチなんて虚しすぎる。初日はすこしはりこんで中級以上のホテルを予約し、車で迎えにきてもらおう。ちなみにインドでは中級以下のほとんどのホテルが予約など面倒なことはやってはいないのだ。
 目が覚めたらホテルの近くの公園を散策しながら露店の食堂でチャイ(インド風ミルクティ)を啜り、サモサをほうばる。僕はその時鼻孔と舌先でインドを直接感じる。そんな朝の予定がすっかり出来上がっているのだ。
 出国手続きを済ませ、空港の出口ゲートに向かう。ゲートの左右の人だかりに圧倒される。なんだなんだこのインド人の数は。2百人はいるだろうか、それぞれが宿泊客の名前とホテル名を書いたカードを持って一斉にこちらを向いている。ムムム!なんだこの迫力は。僕は彼らの気迫に気押されされないようにゆっくりとカードをひとつづつ見て廻る。たしか昼間台北から電話予約したホテルはDゲストハウスだったよな。出迎えのインド人たちは白い歯を見せ、愛想笑いをしながら指でカードを指している。
 一度ぐるりと廻ったけれども見つからない。こんな数の中から自分の名前を探すのは大変だよ。おまけに手書きの下手なアルファベットで書いてあるし、と思いつつ二度目も見つからない。三度目はしっかり顔を近づけてカードを一つずつチェックするが、ない ない ない。
 まさかと思いつつ、予約したDゲストハウスへ電話をいれてみる。
 「あのう今日宿泊の予約を入れていた日本人のシノハーラだけど。今デリー空港に着いたのだけど、迎えがまだ着てないみたいだけど」遠慮しながら恐る恐るたずねてみる。
 「ああ迎えね。今夜はもう遅いからホテルまでタクシーでくればいいよ。問題ないね」
 な なんだ!こちらが英語で抗議の言葉を捜している間に、相手はこともなげに電話を切ってしまった。これが噂に聞いたインド式なのだ。なんという・・・怒りよりもあきれるよりもなんとなく納得させられてしまった。これから1ヶ月この調子に慣れなければやっていけないのだ。
 でもとりあえず今の現実をどうにかしなければと思案気に呆然と立ち尽くしている僕に東京から来たというDさんが声をかけてきた。Dさんは台北からの飛行機で隣の席にいた三十代の男性の旅行者だ。彼は空港内の待合室に泊まるとのことでつい先ほど別れたばかりだった。事情を話すと、それじゃあ御一緒にということで同伴者のYさんと三人で二階にある有料待合所に行くことになった。
 この時点で僕のインドでのホテルでの初夜とすがすがしい朝の公園の散歩、熱々のサモサを頬張りながら啜る甘いチャイの予定は見事にキャンセルになってしまった。ところがインドでの初夜はそんなものでは治まらないのか、平和と善意の中で50数年ぬくぬく育ったおじさんに追い討ちをかけるように、さらなる強力な揺さぶりをかけてくるのだ。
(次回を御期待ください)
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by bonga-curry | 2006-01-10 14:30 | インド食い倒れ日記