インドの食い倒れ(6)
最高にうまいバターチキンを食べた
インドという国は現在人口が約10億3千万人を抱えている。そして近い将来中国を抜いて人口で世界一位になるだろうといわれている。
インドの都市の中でも三番目に人口の多いここデリーは人、人、人で溢れかえっている。人口50万人のわが町熊本に比べたらその25倍強、つまり1280万人のインド人(当たり前のことだが)が住んでいることになる。
僕が滞在しているこのパハルガンジー地区にあるメインバザールという幅5,6メーターほどの通りもまるで毎日がお祭りのようなにぎやかさである。通りの両側のお店や屋台の出店、チャイ売りやピーナッツ売りなどの間を人はもちろんオートリキシャ、タクシー、トラック、乗用車、バイク、サイクルリキシャ(自転車の後ろに人を乗せる座席が付いた人力車みたいなもの)が強引に通り抜けていく。どこかの国のように車両進入禁止や片側通行、歩行者天国など存在せず、通れる道路は時間がかかろうとも通り抜けるという姿勢も時間を多く所有しているインド人ならでわなのかな。しかものそのごった返しているわずかな隙間に神様のお使いである放し飼いのお牛様(ノラ牛とも思えるのだが)や負けじとノラ犬や山羊などがゆくりと徘徊しているのだ。
このとんでもない混雑のなかで突然Uターンしようと大それた試みを果敢にやろうとするトラック、オートリキシャやサイクルリキシャの運転手たちの大声と絶え間なく鳴らし続けるクラクション。外国の旅行者とみればしつこく付きまとってくる客引きや物売り。赤ん坊を抱いて物乞いをする若い母親や道路を這いまわりながら哀れみを訴えて手を差し出す足の不自由な男。牛が屋台の品物におしっこをかけているのをなすすべもなく肩をすくめるだけで眺めている店主。売り物の野菜を山羊に食われ棒を振り上げる少年。バイクに足を轢かれた犬が甲高い悲鳴をあげながら逃げまどう。呼び込みをする食堂の男の子の横では牛糞で滑って転んで汚物だらけで泣いているアジア人の旅行者の少女が。
こんな出来事がこの通りで同時に起きていても、それはこの町に住む彼らにとってはなんでもない日常の一コマにすぎないのだ。
僕はこの通りの喧騒を抜け、ニューデリー駅前でオートリキシャを拾い、東の方向にあるオールードデリーと呼ばれる地区のチャンドニーチョーク商店街へ向かう。メインバザールの喧騒を抜けたつもりが、さらにひどい混雑の中に向かっていると気が付くのにさほど時間はかからなかった。片側4車線の道路にバスやトラック、乗用車が大渋滞。その間をバイクやオートリキシャが縫うように走り回り、それらのさらにわずかな隙間を道路を横断する人々がすり抜けていく。むろんほとんど信号機なんて見かけないし、横断歩道なんて見当たらない。渋滞はさらにひどくなり小回りのきくオートリキシャやバイクですら動けなくなってしまった。
オートリキシャを降りて商店街を歩く。目指すはガイドブックに書いてあったジャーママスジット寺院南門付近のレストランK。人ごみをまさに掻き分け泳ぐようにしてようやく目的の店に。
レストランというよりこれは場末の食堂って感じ。しかし昼食の時間帯はとっくに過ぎているというのに結構人が入っている。しかも明らかにインド人が多い。合席にしてもらいバターチキンとチキンカレーを注文する。全メニューにハーフサイズがあるのが助かる。ただしビールがおいてないのが非常に残念だ。
「すごい!これはスパイシーだ」思わず日本語でつぶやいた。ワイルドなスパイスの香りが僕の鼻孔を押し広げながら侵入してくる。思わずむせ返るがそれでいて妙にいとおしい香りだ。チキンカレーを一口。絶妙にブレンドされたスパイスたちが骨ごとぶつ切りにされたチキンの味を押し上げるように舌先で踊りだす。
嗚呼!至福・・・・・・・・・・・・・
バターチキンに手を伸ばす。しっかりとヨーグルトとスパイスに漬け込まれた鶏肉をさらにスパイスとトマト、バター、生クリームで煮込んだこの手の込んだ料理はその舌触りの良さとスパイスの刺激で僕の口の中に一つの宇宙を練り上げていく。そのあまりの心地よさに僕の顔の筋肉が弛緩していくのがわかる。
嗚呼!嗚呼!至福・・・・・・・・・・・・・・
追伸。この絶妙の二品にナンとミネラルウォーターをつけて180ルピー(450円)とは嬉しさをとっくに通り越してア然となってしまった。
(次回は スパイス屋のマサラティがうまい! です)